マスターズ回顧:ミケルソンとキャディの会話からみえた本当の「勝負」の世界

待ちに待ったマスターズ閉幕から一夜。毎年、最終日翌日のこの静けさが何とも切なく、でも同時に残りの3つのメジャー大会が待ち遠しくなる一日でもあります。


昨夜、ネットに落ちてるハイライト動画やTBSのリプレーを見ていて改めて感激したシーンがあります。


個人的には、今大会生まれたどのスーパーショットより価値のある一瞬でした。


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photo: zimbio.com


フィル・ミケルソンが3度目のグリーンジャケットをグッと引き寄せた13番ホール、パー5の林の中からの2打目。


ご覧になられていない方はこちらから。



その時の状況を補足しておくと・・・


・ピンまで残り207ヤード。ライはウッドパインの上から、でもボールは埋もれていない。グリーン手前にはクリークが流れている。


・目の前には大きな松の木が2本。グリーンを狙うにはその間を通すしかない。その間隔は僅か1.2メートル。


・ミケルソンは13アンダーで首位。2位のリー・ウェストウッドは11アンダーで同じく林に打ち込み、既にレイアップを選択しフェアウェイにボールを出している。前の組のチェ・キョンジュがボギーを叩き11アンダーに後退し、2位以下に2打のリード。


「レイアップするように説得したけど、『ダメだ』と言われた」とキャディ、ジム・マッケイ(通称「ボーンズ」)が言えば、


「頼むからレイアップしてくれ、と祈っていた」とコーチのブッチ・ハーモン。そして


「彼のボディーランゲージで分かった。ああいうショットを打てるからこれだけ勝ててきたのだと思う」とエイミー夫人。


「ハイリスク・ハイリターン」が身上のミケルソン。成功した時は絶賛され(今回)、失敗した時は叩かれます(2006年全米オープン、2001年AT&Tペブルビーチ・ナショナルなど)。ミケルソンにとって成功と挫折は常に紙一重。


歴史に残る一打を打つ直前まで交わされていたミケルソンとボーンズの会話からその紙一重の世界が垣間見えたのです。


試合後、ボーンズはこう振り返っています。


「レイアップするように説得したけど、『ダメだ』と言われた。そうしているうちにチェ・キョンジュが6を叩き(リードが2打に広がったことを知り)、それを口実になんとか説得しようとした。すると、彼は『絶対にダメだ』と。彼は『よく聞け。木の間に隙間がある。そしてクラブは6番アイアンだ。真っ直ぐ狙って、クリーンに当てればいいだけなんだ。フックやスライスを打たなければいけない状況じゃない。デカいグリーンに目掛けてクリーンに当てるだけでいいんだ』と一環して狙う姿勢を崩そうとしなかった」


ただし、そこにリスク(ウッドパインのライ)がある限り、選手の気持ちをなんとかして宥めて別の選択肢があることを気付かせるのもキャディの役目。


「主張しすぎずに、言いたいことを言う、それが大事なんだ。だから俺は考えながら言った。『土曜日の15番、87ヤードからのアプローチすごかったじゃないか。もうちょっとで入ったんだし、あんなすごいショットが打てるんだから、ここでも・・・』と。すると返ってきた答えが『俺は狙う』の一言。これ以上は無駄だと思った」


腹を括ったミケルソンとボーンズ。あとは何が最善のショットなのかを決めるだけ。ミケルソンは6番アイアンで狙いたい、ただしエッジからピンまでの距離はほんの僅かで少しでもミスショットになると手前のクリークに転がり落ちる可能性もある。かといって1つ番手を上げると奥につけてしまい、下りの難しいラインのパットが残る。


ここからはTBSの生中継でも2人の会話の音声を拾っていました。


この会話が何とも印象的でした。


ミケルソン:
「エッジとピンの間に落としたい、でもピンハイにはつけたくない。6番で打って、エッジからピンまでの間に止まるだけのスペースはあるだろ?」


ボーンズ:
「あります。大丈夫です」


ミケルソン:
「5番だと大きい気がする。6番をクリーンにいったら大丈夫だろ」


ボーンズ:
「大丈夫です。6でOK」


このボーンズの言葉に潔さ、職人を支える助手にしか言えない言葉、彼にしか与えられない安堵感、この二人の間にしか分からない信頼関係がある・・・そう感じました。


この場面で仮にボーンズが


「大丈夫です、でも●●には気をつけてください」



「エッジからピンまで距離は●ヤードです」


と言っていたら果たして同じ結果が生まれていたでしょうか・・・。


スポーツの世界に生きる人たちにとって、勝つか負けるか、死ぬか生きるかの局面は日々向き合っているものです。


これは最近体験したことですが、大きな分岐点に立った時、決断をしなければいけない立場のアスリートは余計な情報より安心感を求めるものです。特に勝負の世界に生きる人たちは、理屈は聞きたがりません。YesかNoか、白か黒か。責任は決断をした人が負うのです。正解を求めているのではなく、極論、正解であると思わせてほしい、最後に背中を押して欲しい心境にいるのだと思います。彼らは自らの決断が正しいと思える言葉を聞きたいだけなのです。


これはある意味、サラリーマンでも同じだと思います。会社にとってリスクよりチャンスが大きいのか、その新規事業に手を出すべきか自粛すべきか・・・。その決断を下す時、どういう部下であるべきなのか?「大丈夫です、絶対に成功します」と根拠があって言えるとするなら、それが果たして正しい部下の姿なのか?しかも、失敗した時に責任を取る覚悟でそういう行動が取れるのか?


今回のボーンズとミケルソンの会話は僅か数分の出来事でしたが、改めて毎日の自分の姿を見つめなおす機会になりました。まだまだ勝負の世界に生き切れていない自分がいるんだな、と。


今年のマスターズは16番でのホールインワンやミケルソン、タイガーのフェアウェイからのイーグルショットが語り草になっていくでしょう。個人的には、この13番で交わされたミケルソンとボーンズの会話がいろんな意味で最大のハイライトだった気がします。


来年、またこのようなシーンに出会えることを願って・・・。

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